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30代が読んだ『両利きの経営』:知の探索、知の深化を自分に落とし込んで考察

『両利きの経営』の感想:「知の探索」「知の深化」を図解や事例で要約

米国を代表する組織経営学者であるチャールズ・A・オライリー教授の提唱する『両利きの経営』というビジネス書を読んだ感想をご紹介します。経営者はもちろんビジネスマンから私のようなフリーランスの人間にとっても、アフターコロナ時代を生き抜く知恵がたっぷり詰まっていました。

両利きのほうが便利なことはみんなわかっているんだけど

この本は、2019年2月に発売されたベストセラーの増補改訂版です。すでに「両利きの経営」って、一般的なビジネス用語みたいな位置づけになるほど有名ですが、あらためて簡単に説明しておくと、「自分の持っている分野をどんどん広げて開拓しよう」という行為と「すでに手にしている分野をさらに継続して深堀して光らせていこう」という両方のベクトルを伸ばしましょうという意味です。

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「自分の持っている分野をどんどん広げて開拓しよう」は「知の探索」、そして「すでに手にしている分野をさらに継続して深堀して光らせていこう」は「知の深化」と書かれています。

ここについては本の11ページにある、この本の監修もされている入山先生によるこの図がとてもわかりやすいと思います。

出典:『両利きの経営』より

ここでは、ベクトルの方向が90度の直角の向きで表現されているんですが、もしも180度、つまりべくトルが真逆の方向を向いてしまったときにどう対処するかが、リーダーにとって一番の課題ではないかと感じました。

■一兎しか追ってないのに、見失うこともある

第3章のイノベーションストリームとのバランスを実現させるという話の中で登場しているオメガのエピソードは、現在の日本企業が直面している多くの課題と似ているようにも感じます。

精密機械工学の熟練されたスキルを必要としない新しい時計のアイディアを探るために補助金を出して、安価な時計が作れることになりました。ところが特許まで取得された状態だったにも関わらず、自社ブランドの脅威になりかねないという理由でライセンスの話を断ってしまい、当時ほぼ無名の日本のセイコー(昔の服部時計店)に供与されることに…。結果的に、スイスの時計産業が800社も倒産するほどの事態を招いてしまうのですが、本の中では

彼らは探索と深化を両方とも活用できなかったのだろうか。もちろん可能だ!

引用:第3章 イノベーションストリームとのバランスを実現させる|『両利きの経営』より

と断言されていて、まぁ結果をみればそうなんだけれども、ハイエンドで勝負するブランディングで成り立っていた状況から大きな変化を求められて、既存ビジネス(本で言う知の深化)を優先してしまった、オメガの当時リーダーだった人たちの気持ちもわからんことはないんですけれど…と思ってしまいました。ここで両方やりましょう!は自分たちのブランディングを否定しかねず、言い出しっぺとなる勇気はでますか?という問題があるのです。

■そんな簡単に両利きにはなれないから困ってるんです

少なくとも、高価な時計を売って適正な利益を出しながら、今のやり方ではない時計を作ろう!と補助金まで出して、研究・開発に投資していた時点では、探索と深化のバランスがとれていたわけです。

けれど、いざ、新しいものが本当にできてしまって、それば自分のブランドの真逆を行く価値だったとき、言ってることとやってることのパラドックス的な事態に、リーダーだからって折り合いつけるのやっぱ難しいと思うんですよね。

そりゃ、両利きでいければ、便利だよねってみんな思ってはいるんです。結果的に利き腕で書いた字のほうが美しいことが分かっていながら、10年使うパスポートのサインをあえて利き腕じゃないほうで書こうぜ!みたいなチャレンジが必要だとはいいきれないわけで。

探索と深化のバランスをとりながら、業務をまわし、部下に指示を出し、たとえばそれである日、ポンと結論がでてAかBを選ばなければならなくなった時、「AB両方で行きましょう」とプランCでちゃぶ台をひっくり返せる勇気があるかどうかって、リーダーと一言で言っても、どのくらいの立場にあるかによるんじゃないのかなと思いました。

それでもなりたかった姿に近づこうと努力することが美しい

「AB両方で行きましょう」と言える人…、というかAB両方を実行できる人とはどんな人なのか?リーダーシップというより、それがカリスマ性とか言われるオーラなのかもしれませんよね。ひとつの例として、私の前いた会社の偉い人たちに共通していたのは、声がやたらイイことでした。声がイイから、大したことを言ってなくても、すごいことを言ってそうに聞こえるのです。アニメ声で舌ったらずなしゃべり方しかできない私は、その真理に気づいた時、「あぁ、この会社で偉くなるのは無理だな」と思いました。

翻って、世間のリーダーシップがあると言われる有名な偉い方々にも、取材を通じてお会いしたことがあるのですが、そういう人は、ものすごく背が高かったり、ものすごく笑顔が魅力的だったり、ものすごくお酒に強かったりしました。人とは違うものすごさを持っていて、一度会っただけで圧倒される何らかの魅力があるという共通の特徴がありました。

■心に訴えかけられるリーダーとは?

ただ「AB両方で行きましょう」と言える勇気があったとしても、人がついてこなければ、結局何もならないのです。そのあたりは第9章の両利きをドライブさせるリーダーシップと幹部チームのあたりでくわしく解説されているわけですが、そこで印象的だったのが

心に訴えかける戦略的豊富を示して、幹部チームを巻き込む

引用:第9章 両利きをドライブさせるリーダーシップと幹部チーム|『両利きの経営』より

という部分です。深化と探索といえば、耳障りがいいけれど、本業にプラスして新しいことをはじめよう!というビジネスシーンにおいて、両利きの組織をつくるには、毛利元就流の三本の矢じゃありませんが、ある程度の決定権を持っている幹部クラスが結束して、さらにはオーナーシップまで発揮してく必要があるよということ。まぁ、そうなんだけど、それがむずいんですよね。

■イノベーションストリームとダイナミックケイパビリティ

あるべき理想の姿は大切にしつつも、180度、真逆のことをスタートさせねばならなくなったとき、現場で起きる軋轢をいかに滑らかにし、自分の言っていたことの整合性をどうとるか。そこに根回しが必要であるというのは、アメリカ人のオライリー教授が書いた本だけど、いかにも日本的でちょっと意外だなともいました。

市場のなかにおける、強い組織とは?人、モノ、お金、情報、時間…という限られた資源とイノベーションストリームのなかで、自分たちがどう変わっていけるのか?このダイナミックケイパビリティの重要性を、改めて考えされられるわけです。

ChatGPTという脅威に立ち向かわねばならない今こそ

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そして、昨今ホットなChatGPT。多くの仕事はいずれAIに奪われていくわけですが、どのように上手に使いこなすかを議論していると「ライターの仕事なんてなくなる」くらいのことは普通に言われて「お前なんかに言われなくてもわかってるわ」と口をとんがらせたりしています。私はChatGPTをすでにめちゃめちゃ使っているんですが、やってみてわかったのは、可能性もあれば、限界もあるということ。そしてAIにできない分野は価値が高く評価されていくであろうということ。

このような状況の中で、日本では教育やビジネスの現場が「AI禁止」みたいなことを掲げちゃったり、逆に「GPT-4ってすげー」感動しすぎて「これで事務方のオペレーションは必要なくなるぞ~」とキャッキャして無駄に過大評価しちゃう場面に遭遇すると、もう迷路の行き止まりにヘルメッドなしでハーレーに乗って突き進んでいるような気分になります。

■決断すべきときが迫っている

AIとの共存という新しい探索すべき道と既存ビジネスの深化。それこそが、今私にとって、そして多くの企業や経営者、リーダーたちにとっての両利き戦略として掲げるべきテーマになっていくのではないでしょうか。

本全体のテーマはリーダーシップと変化に対応していく決断力だったわけですが、リーダーたちが行動し、結論をだすすべき時は、私たちは思っているよりずっと間近に迫っている、そんな風に感じました。

ま、その正解が書かれているわけではないですし、私は今、30代ですけれど、40代、50代、60代…、それぞれ読む年代、経験値、立場、状況によって、刺さるポイントが違うと思うので、ぜひ手に取って読んでみてくださいね。

【INFO】

今回ご紹介したのはチャールズ・A. オライリー (著)、『両利きの経営』です。

世界のイノベーション研究の最重要理論「両利きの経営」に関する初の体系的な解説書です。入山 章栄先生、冨山 和彦先生のW解説ですごく読みやすかったです。


▼この本も人気です!


ほかにも<本を読まなきゃ / BOOK>では、私が「また読みたいな!」って思うお気に入りの一冊をご紹介しています。ビジネス書から小説、脚本まで幅広く様々なジャンルをピックアップ。ぜひチェックしてみてね。

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