カリフォルニア州司法試験にマジで受かっちゃったドナルド先生による【連載】米国弁護士試験のホントのトコロ。前回は、私が取り組んだMBE問題集で得られた知識を日本語でまとめたオリジナルTips集をご紹介しました。
これまでアメリカの司法試験の内容・対策もご説明させていただきましたが、「そもそも日本人が米国弁護士の資格を取って役に立つの?」というごもっともな疑問をお持ちの方も多いかと思います。今回は米国弁護士資格の一応のお役立ちシーンについてのお話です。
※ なお、「試験勉強を通じて法律英語や米国法に詳しくなった」的な一般的なメリットは割愛します
もくじ
エリート多し!アメリカで弁護士としてバリバリと働く人
アメリカ国内(正確には資格を取得した州内)で弁護士として活躍する、という正統派の方々が当然いらっしゃいます。その場合、強みであるに日本語を活かして日本人・日本企業をクライアントにすることが多いようです。行政手続き関係は馴染みのないことが多いので、日本語が通じる代理人だと便利ですね。他方、法人相手の場合だと日本企業側(多くの場合、窓口は法務部でしょうか)も英語ができる人間は増えていますので、単に「日本語が通じるから」という理由だけではなかなか仕事を得るのは難しく、実務能力もネイティブと遜色ないレベルが必要となりそうです。
今や最も有名な受験生の小室圭さんも、ニューヨーク州の法律事務所に所属していると報じられていますので、このパターンです。
ただ、このような方は日本人資格者の中では少数派でしょう。日本国内の法律事務所もしくは企業勤めで、米国弁護士資格の取得は必須ではないが頑張って合格しました、という方が多数派かと思います。
合格した州に留まらず、日本国内で米国弁護士として活躍する人も
米国弁護士は基本的に登録されている州でしか活動できませんが、“外国法事務弁護士”として承認を受ければ、日本国内で活動することもできます。もっとも、日本の弁護士ではないので、活動範囲は限定的です。資格取得後、3年の実務経験(そのうち少なくとも1年間は外国での経験)などの所定の条件を満たすことが必要です。
http://www.moj.go.jp/ONLINE/FOREIGNER/3-1.html
日弁連の弁護士白書によれば、2020年4月時点で436人が外国法事務弁護士として登録しており、国籍別では日本人は87人に留まっています。一番多いのはアメリカ国籍の147人で、資格別ではニューヨーク州弁護士の106人です。企業勤めの日本人が外国法事務弁護士として登録しようとする場合、外国での経験という要件がネックですね。
https://www.nichibenren.or.jp/library/pdf/document/statistics/2020/1-5-2.pdf
米国弁護士資格のメリット①弁護士秘匿特権が使える
米国の訴訟では、Discovery(ディスカバリー)という制度があり、自分に不利な情報であっても、相手方の要求に応じて提出しなければなりません。日本企業内での「米国で売ってる製品の安全弁の確認をうっかり忘れてました」といったメールのやりとりも対象となり、場合によっては致命的です。しかし、米国弁護士とクライアントとの間の法律的なアドバイス等は「Attorney – Client Privilege」という特権がかかり、相手方への開示を免れることができます。
米国法関連の法律相談は現地の米国弁護士にすることが多いと思いますので、社外専門家とのやり取りでは問題になりにくいですが、企業勤めの米国弁護士は大いに貢献できるでしょう。企業内では法律にあまり馴染みのない部門の社員から「当方がヤラかしました」とか「うちのサービスが侵害してます」といった物騒なメールが平気で飛んできますので、それらに特権をかけられるのは安心です。米国絡みの案件に携われる機会も増えることでしょう。
米国弁護士資格のメリット②情報収集がはかどる
米国弁護士にはコミュニティでの活動や裁判情報へのアクセスの優遇制度などが用意されています。例えばカリフォルニア州のCalifornia Lawyers Associationに加入することで(会費:99ドル/年)、様々な法律分野の研究活動への参加や判例データベースへのアクセス権を得ることができます。判例データベースは通常価格が995ドル/年らしいのですが、これが年会費99ドルに含まれるというのは有難いですね。最新の裁判分析は関心も高いところですので、新鮮かつ正確な情報ソースにありつけるのは大きなメリットです。
米国弁護士資格のメリット③相手と対等な立場に
最近では日本企業でもインハウスの日本国弁護士が法務部等に所属していることが増えましたが、一定規模の米国企業とのやりとりでは、相手方が米国弁護士であることはよくあることです。米国企業の法務部門には多くの弁護士が在籍していることは通常であり、「あれ、君は法律を扱うのに弁護士じゃないの?」という反応をされることすらあります。
敵味方問わず「米国法では~」とグイグイとこられるところ、米国弁護士資格者であることは相手方からのリスペクトを生み、オラつきを多少なりとも抑える効果が期待できます。もっとも、私の場合はロースクールを出ていないので、少し弱さがありますが…。
米国弁護士資格のメリット④名刺や署名に書ける
名刺やメール署名に「米国弁護士」と入ることで、米国法の基礎的な素養と一定の英語力を有することを示せますので、話が早いです。雑談ネタとしてもちょうど良さそうです。あとちょっと映えますよね(笑)。
なお、ニューヨーク州にしろカリフォルニア州にしろ、弁護士登録のステータスを「Active」か「Inactive(弁護士として活動を行わない)」か選択でき、非Activeにすると年会費が安くなります。さらにニューヨーク州の場合は継続義務研修(CLE)が免除されます(カリフォルニア州はステータスに関係なく研修義務が課されます(涙))。ただ、非activeにした場合に名刺等に米国弁護士の肩書を入れてよいのかは議論があるようです。
給料もすごい?!相談料が1時間1000ドル以上の弁護士もいる一方で
全米メガヒットドラマ『SUITS』のように大活躍している弁護士も実際に存在しており、例えば相談料が1時間1000ドル以上もする米国の先生を存じあげておりますが、さすがにごく少数派でしょう(英国も非常に高額になりがちな印象)。訴訟件数が日本とは桁外れに多いとはいえ、大儲けできる案件はそれほど多くはなく、また、弁護士の数も圧倒的に多いため、厳しい競争にさらされているのが現実です。
就職先として法律事務所ではなく、企業や政府関係、公益事業へ進む合格者も多くいます。資格の活かし方は人それぞれですね。
【連載】米国弁護士試験のホントのトコロは毎週火曜日19時の配信となります。随時、質問などもわかる範囲でおこたえしていこうと思いますので、お問い合わせからお気軽にご連絡ください。
text ドナルド先生 2021年米国(カリフォルニア州)司法試験合格。世界中のディズニー制覇をもくろむアラフォー。