NHKの大河ドラマ『麒麟がくる』で明智光秀が話題です。私のなかの光秀のイメージを決定づけたのが、学生時代に読んだ、三浦綾子先生の『細川ガラシャ夫人(新潮文庫)』という小説だったので、信長や秀吉目線からの描かれる作品では“3日天下”とか“裏切り者”のようなイメージにはいつも違和感を覚えていたのですが、今回の大河はとってもカッコよく描かれていて、腑に落ちるシーンもいっぱい。
そんなわけで、初版は昭和61年のちょっと古い小説ですが、すごく人間味あふれる戦国時代の人物に出合えるおもしろい作品なのでご紹介したいともいます。
もくじ
美人でモテモテな娘・玉子が細川ガラシャになるまで…
信長を討って、あっという間の反撃に倒れ、罪人に近しい扱いをすることになる明智光秀の娘であり、秀吉によってバテレン追放令が発布された時代にキリシタンになり、非業の最期を迎えた女性。この3行程度の概略には、書き表せないほど、ひとりの人間的な魅力が凝縮された本です。
「容貌の美しきこと、たぐいなく」
「楊貴妃桜を見るような、あでやかな美貌」
と記録に残っているお玉のその美しさは、七歳にして、早くも人の目を集めた。
引用:細川ガラシャ夫人(上) (新潮文庫)より
作者である三浦綾子さんの小説って、もちろんフィクションや脚色があるとはいえ、その時代にタイムスリップして映像を見ているかのようなクリアな表現に圧倒されます。そして戦国時代というと、男性の武将目線でのストーリーが多い中で、現代よりも圧倒的に弱い立場であった女性が、至らなさがありつつも自己を確立して力強く生き抜く生涯が丁寧に描かれているところも魅力。
穏やかな娘時代が描かれた前半では、光秀が守った家庭の温かさにじんわりする場面も。後半の本能寺の変以降は一転して、玉子を襲う苦境の連続のドラマチックさにも引き込まれます。
初恋、結婚…。幸せの意味を考えさせられる不変的テーマ
私がこの本をはじめて読んだのは、中学生くらいの多感な時期だったので(笑)当時は戦国時代の恋愛事情にもキュンキュンしました。足軽の息子・初之助との淡いひととき、細川家への輿入れ…。
玉子の婚約を知った初之助には、命を惜しむ心はなかった。その結果、今までの臆する心はふり払われ、思いの限りに戦えたのだ。雑用に追い使われる小者ではない。が、初之助の心の淋しさには変わりはなかった。
引用:細川ガラシャ夫人(上) (新潮文庫)より
そして夫となる細川忠興にもまた強烈に愛される玉子。でも自分を見失わない強い一面も持ち合わせています。
自分から愛されたいと願うとうまくいかないけれど、自分の信念や愛を貫き通せる人は自然と周囲から愛されるんですよね。夫の忠興氏のヤバイくらいの愛し方・時代に語り継がれるレベルの異常な嫉妬深さも笑えます。あぁ、こういう人、今もフツウにいるよなぁという不思議な共感もできちゃいます。一歩間違うとモラ夫なんだけど、そこには深い愛がある。あれを重いと思うかどうかは別として。
逆に時代が違うからこそ、結婚というもののあり方を冷静に俯瞰できるところもよかったです。自分が今手にしているものをじっくり見つめてみるのもいいかもしれません。ブレないことは必ずしもいいことではありません。間違っていれば、引き返したり、軌道修正しながら生きるべきです。
男に依存すると大変なことになるというのはいつの時代も一緒だなぁとか思ったりもしました。「愛されたい女性」ってリスクなんですよ。決定権が男にあるから。仕事や人間関係を断ち切らせて自分との世界観だけに落とし込もうとする男性は一途とはいいません。ただのヤバい男です。
だから依存する体質の女性は危ないんですけれど、ヤバ夫・忠興を愛しながらも、玉子自身が依存とは真逆をいく自分の意思しっかり持って貫き通せる側面が際立っているからこそ、正しいお手本を見せてもらっているかのような気分にさせられました。
押し寄せる不幸のカードを鮮やかに裏返した女性・細川ガラシャ
人間に与えられている幸せと不幸のバランスって、決して平等ではない…。大人になるにつれて、だんだんとみんな、そういう現実と向き合っていかざるを得なくなります。玉子さんに割り振られたカードは、戦国時代のお姫様という恵まれたスタートからは想像できないほどの波乱が待っていました。でも読み終えて思うのは「幸せ」と言える人生ではないけれど「不幸」でもなかったということ。
自分の力ではどうにもならないような時代の波に飲み込まれそうなとき、心のよりどころになる神様の存在が、魂を救うこともあります。逆に、宗教や信仰、依存している男の存在によって、その人の人生が終わってしまうこともあります。
目の前の深い闇が、神が与えた試練なのか、自分からハマりにいってしまった蟻地獄なのか、離れてみれば一目瞭然でも渦中にいる人にはわからないものです。大切なのは、ピンチのときに救いの手を差し伸べてくれる人に出会えるかどうかではなく、自分で出口に繋がる光を見いだせるかどうか。人生って、そういうことの連続ですよね。
苦難の多い時代だからこそ、生き生きと自分らしい毎日を送ろう
父母一族は滅び、夫や子どもとも離れ離れとなり、逆臣の娘として苦難に見舞われる玉子がキリシタンになるための洗礼を受け、運命をあるがままにひたすら祈る…。最近、改めて読み直してみて、命をかけられるほどの信念にグッとさせられました。
思わず玉子の目がうるんだ。細川家の運命を担って生きている忠興の、男としての辛さを、玉子は今しみじみと感じたのである。あのまま、城中で殺されるか、切腹を命ぜられるかわからないのだ。それでも、忠興は一家の浮沈に関わる一大事故に、出向いたのだ。
玉子は奥の一室に入ると、忠興の無事を天主(デウス)に祈った。
引用:細川ガラシャ夫人(下) (新潮文庫)より
聡明だけれど傲慢で、周囲に挑戦的で、共感しにくい部分もあるけれど、逆にそういう理解されづらい生きにくさを抱えた性格こそが人間らしいというか、事実かどうかなんて今じゃわからないけれど、あぁ、こういう女性がいたのかもなって思うと、ちょっと生きるヒントみたなものが見つかるかもしれません。
麒麟がくるは、架空の人物が多すぎて、私は「ん?」って思うことが多いし、娘の玉子がガラシャになる前に光秀死んじゃうから…登場頻度低そうだけど(;^_^A
光秀の娘、その後、どうなるんだろう?って興味を持っている人は、ぜひ三浦綾子先生の『細川ガラシャ夫人』読んでみてください。ヤバ男にひっかかりたくない若い女性にも強くお勧めします。というわけで今回は、私が赤坂サカスで撮影した2020年のイルミネーションの様子とともにお届けしました。
今回ご紹介した本は三浦綾子先生の<細川ガラシャ夫人>です。
清らかにして熾烈な種買いを浮き彫りにした三浦先生初の歴史小説です。
ほかにも<本を読まなきゃ / BOOK>では、私が「また読みたいな!」って思うお気に入りの一冊をご紹介しています。ビジネス書から小説、脚本まで幅広く様々なジャンルをピックアップ。ぜひチェックしてみてね。